HLA不適合造血細胞の移植は、アロ免疫による強力な腫瘍拒絶機構の活用という点できわめて魅力的な抗腫瘍免疫療法である。その実行の上で最大の課題は、HLA不適合移植片へのトレランスの誘導と、重症GVHDの回避であるが、申請者は、哺乳類に普遍的に見られる妊娠時の免疫寛容に着目し、母子間においては双方向性の「トレランス」機構が出産後も長期間に渡って持続するという仮説を提唱している。この検証のため、sequence-specific primerを用いたHLA特異的なnested PCR法の共同開発を行い、自己免疫疾患などを有さない30家系以上の母子間を対象とした検討を行ったところ、70%以上において、お互いの非遺伝HLAを有する造血細胞がマイクロキメリズムの形で、長期間(最高50年)存在し続けているということが明らかとなった(投稿準備中)。同様の現象はマウスにおいても確認可能であり、C57B L/6 Ly5.1とBALB/c Ly5.2とを交配させて得られたF1骨髄からは、第12週齢以上においても、母と同様の表現型をもち前駆細胞活性をもつ細胞群が分離可能であった。これらの知見は、哺乳類の造血細胞は本質的にキメラである可能性を示唆するものであり、現在母子間マイクロキメリズムの成立維持機構の解明を目指して、さらに解析をすすめている。また、このような母子間における免疫学的特異性のヒト造血細胞移植の結果への影響を検討するため、本邦において実施された両親から子供への造血細胞移植の成績の後方視的な解析を行った。その結果、驚くべきことに母からの移植片を使用した群の予後が、父の移植片を使用した群よりも格段にすぐれていることが明らかとなり、とりわけHLA不適合移植片を使用した場合にはその差が顕著であるというきわめて示唆にとむ現象が明らかとなった(投稿中)。
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