アンチトロンビンが炎症性サイトカインによる血管内皮細胞の活性化を抑制するか検討したところ、腫瘍壊死因子やinterleukin-1によるE-selectinやICAM-1の血管内皮細胞上の発現はアンチトロンビンによって濃度依存的に抑制された。しかしながら、これらサイトカインによる細胞内情報伝達において重要な役割を果たしているNF-kappaBやJNK、p38のサイトカインによる活性化は、アンチトロンビンによって抑制されず、これらの情報伝達因子の抑制によってアンチトロンビンは血管内皮細胞の活性化を抑制しているのではないと考えられた。一方、サイトカインによる血管内皮細胞活性化を抑制するサイクリックAMPの細胞内濃度がアンチトロンビンによって上昇し、それに引き続くCREBの燐酸化も認められた。したがって、アンチトロンビンは血管内皮の細胞内サイクリックAMPを上昇させることで、血管内皮細胞活性化を抑制していると考えられた。 またラットにアンチトロンビンを投与すると血中6-keto-PGFlalphaが上昇し、in vivoにおいてはアンチトロンビンはプロスタサイクリンの産生を促進するが、培養血管内皮細胞を用いた解析では、アンチトロンビンによるプロスタサイクリンの産生は認められなかった。この結果からアンチトロンビンは血管内皮細胞を直接刺激しプロスタサイクリン産生を促進しないが、in vivoでは何らかの機構でアンチトロンビンは間接的に血管内皮からのプロスタサイクリンの産生を促進していると考えられた。
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