申請者はヒト血液細胞における転写因子cAMP応答エレメント結合蛋白(CREB)の役割を検討する過程において、一過性遺伝子導入法を用いてCREBを血液細胞株に過剰発現させた際にプログラムされた細胞死(=アポトーシス)が誘導されることを観察しこれを報告してきた。今回はこの現象が遺伝子発現法の種類によらず生じる普遍的な現象であることをまず確認した。すなわちテトラサイクリン誘導的遺伝子発現システムを用いた安定的遺伝子導入法においてもCREBの発現に一致してアポトーシスが誘導されることを確認した。つぎにCREBによりアポトーシスが誘導される分子機序を明らかにするため、CREBの様々な欠損変異体および点変異体を作成してそれらを遺伝子導入効率の高いことが知られているヒト由来の接着性細胞株に一過性遺伝子導入法を用いて強制発現させた。そしてアポトーシスの進行状況を、染色体DNAの断片化の程度、および細胞DNA含有量低下の程度の2者により定量化することで、各変異体のアポトーシス誘導能を評価した。その結果、アポトーシス誘導にはCREBの転写活性化に関わるドメインは必須ではないこと、またリン酸化酵素により制御されるドメインも必須ではないこと、しかしDNA結合ドメインは必須であることが解った。さらにDNA結合ドメインおよびそれに隣接する4つの酸性アミノ酸からなる部分からなる63個の比較的短いペプチド(CREBは341個のアミノ酸からなる)を導入するだけでもアポトーシスが誘導されることが示された。以上の結果から、アポトーシスの誘導においては上記の4つの酸性アミノ酸(テトラペプチド)の構造が重要な意義をもっているものと結論された。今後はこのテトラペプチドに結合する細胞性蛋白の有無、それの精製およびクローニングを行うことを計画している。
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