出生前後の発育遅滞を主徴とするラッセル・シルバー症候群の10%の患者に第7番染色体の母性片親性ダイソミーを認める観察から、同染色体上の遺伝子にインプリンティングの存在が示唆されてきた.7p11.2-p12にマップされるGRB10遺伝子は、胎児発育に不可欠な成長ホルモンあるいはIGF1受容体との相互作用を通して成長抑制効果を示す.そのマウス相同遺伝子は母親由来のアレルのみから発現し、インプリンティングを受けていることから、ラッセル・シルバー症候群の有力な原因候補遺伝子と考えられた.本研究では、GRB10遺伝子のインプリンティングの有無を検討し、その発現異常とラッセル・シルバー症候群発症との関連について検討した。 最初にインプリンティングの有無について検討した.GRB10遺伝子のエキソン3内に存在するポリモルフィズムを利用して判明したヘテロ接合体の胎児脳組織から、mRNAを抽出しRT-PCRをおこない、この遺伝子が片親性発現することを示した.また、ヒト体細胞ハイブリッドに一本のみ含まれる第7番染色体の親由来を、RT-PCR法およびメチル化解析法を用いて判定し、GRB10遺伝子が母由来の第7番染色体でのみ発現することを示した.以上の成績からGRB10遺伝子は母性発現インプリンティング遺伝子であると判定した. さらに、変性高速液体クロマトグラフィー(DHPLC)システムを用いて患者検体の変異解析をおこない、患者58例中2例に第753番塩基の一塩基置換(C→T)を示すアミノ酸置換(P95S)を発見した.RFLP法により、P95Sアレルが正常対照100例(200染色体)に認められないことから、GRB10遺伝子の発現異常と本疾患発症との関連が示唆された. 今後の予定は、1.大規模な患者集団における変異解析、2.GRB10遺伝子の近傍に存在する新規インプリンティング遺伝子の同定である.
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