【研究の背景】 子宮内胎児発育遅延(IUGR)の成因として、子宮胎盤循環障害が重要視されている。我々はこれまでにラット子宮胎盤循環の虚血再灌流(IR)によりIUGRモデルを作成、IR後に持続的に子宮血流量の減少(虚血後低灌流)が生じることから、この現象が本モデルでのIUGR惹起の可能性を示した。近年、子宮胎盤血流の制御に一酸化窒素(NO)の重要性が明らかとなりつつあり、本モデルにても関与が推測される。一般にIR障害において、NOがアポトーシスの誘導などを介し組織障害的に作用するか、血流維持や活性酸素の消去など組織保護的に作用するかが論じられ、他のIUGRモデルにおいては、相反する二つの作用のいずれがIUGR発症機序に重要であるか検討が不十分である。そこで我々は、本モデルを用い、IR障害に伴う子宮胎盤循環障害やアポトーシスに関わるNOの役割を検討した。 【研究方法】 1.IUGRの発症 本モデルの妊娠17日目の片側子宮胎盤循環を30分間虚血し再灌流する。妊娠21日目に帝王切開により胎仔・胎盤を娩出、各重量を測定する。虚血前にNO供与体またはNOS阻害剤を投与し、vehicle投与のコントロール群と比較検討する。 2.子宮・胎盤におけるアポトーシス 1にて摘出した子宮・胎盤について、DNAを抽出し、アガロースゲル電気泳動法にてDNA ladderを観察した。 【結果】 1.IRにより妊娠21日目の胎仔体重ならびに胎盤重量は有意(約11%)に減少し、IUGR発症が認められた(p<0.01)。NO供与体前投与においては同様の傾向を認めたが、NOS阻害剤前投与によりIUGR発症は抑制された。 2.IRにより妊娠21日目の胎盤においてDNA ladderが認められアポトーシス発現が誘導された。NO供与体前投与においては同様の傾向を認めたが、NOS阻害剤前投与により抑制された。 【結語】 ラット子宮胎盤循環の虚血再灌流により惹起されるIUGRの発症機序において、NOは重要な役割を果たしていることが示唆された。 NOはアポトーシスの誘導などを介して、IUGR発症に関与していることが推察されたが、その産生動態や子宮胎盤循環障害の機序、NOS阻害剤の種類や局在についてさらなる検討が求められた。
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