研究概要 |
皮膚T細胞リンパ腫治療目的に投与されたretinoid X'receptor(RXR)選択的リガンドが、下垂体TSHの合成をTSHβsubunit遺伝子promoter領域に存在すると予測されるnegative regulatory elementを介して転写レベルで抑制することにより二次性甲状腺機能低下症を引き起こすことが報告された。しかし、レチノイドが視床下部TSH放出ホルモン(thyrotropin-releasing hormone ; TRH)の合成、分泌に影響を及ぼすか否か不明であり、生体内でLGD346がTSHβ遺伝子に対する作用のみならず視床下部TRH遺伝子の発現を直接抑制することによって三次性甲状腺機能低下症をきたす可能性も考えられる。本研究では、まずall-trans-retinoic acid(atRA)ならびに9-cis-RAの視床下部TRH合成に及ぼす影響を検討した。8週齢雄マウスに100 μg/kgのall-trans-RAないしは9-cis-RAを14日間腹腔内投与後、血中TSHならびtotal T4レベルをRIA法で測定し、下垂体TSHβ mRNAならびに前視床下部TRH mRNAをNorthern blot法にて解析した。陽性コントロール群として100 μg/kgのtri-iodothyronine(T3)を3日間投与した群について同様に解析した。その結果、atRA群において、有意なTSHならびにT4値の低下を認めた。更に、同群において下垂体TSH mRNAならびに前視床下部TRH mRNAレベルにも有意な減少が認められた。9-cis-RA群においても同様に減少傾向を認めたが、有意差を認めなかった。一方、atRA群のTSH、T4の減少はT3群に比較して弱かった。次に、ヒトTRH遺伝子promoterをluciferase reporterに接続したplasmidをリン酸カルシウム法にてCV-1細胞に遺伝子導入し、そのpromoter活性に及ぼすatRAの影響をRAR発現ベクターをcotransfectionして検討した。-900/+51, -500/+51, -170/+51の3種類のTRH promoter constructにおいてRARのcotransfectionにより、promoter活性が刺激され、100μM atRA添加によりpromoter活性が抑制された。RXRのcotransfectionはpromoter活性を増強したが、9-cis-RAによる抑制効果を認めなかった。また、RARα, β, γによる抑制機能の違いは認められなかった。以上の結果よりatRAは、下垂体TSHに加えて、視床下部TRHの発現も転写レベルで抑制することが示唆され、その抑制効果はT3に比較して明らかに弱いことが判明した。
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