研究概要 |
副腎皮質において糖質コルチコイドおよび副腎アンドロゲン産生の鍵となるステロイド17α-hydroxylase(CYP17)は、コルチゾール産生腺腫において過剰発現を、またデオキシコルチコステロン産生腺腫において低発現を認め、各々の腫瘍におけるホルモン産生異常の原因と考えられている。しかし、現在までに腫瘍においてこのCYP17遺伝子異常は発見されておらず、CYP17遺伝子の転写調節異常と考えられている。CYP17遺伝子のプロモーター領域には、核内オーファンレセプターのCOUP-TF,SF-1が結合して転写調節に関与していることが示されている。そこで、本年度はこれらのオーファンレセプターの発現をNorthern blot,Western blotおよび免疫組織化学分析にて検討した。 正常副腎においては、COUP-TF,DAX-1およびSF-1は副腎皮質細胞の核に免疫染色上、陽性像を認め、共存していることが示された。さらに、COUP-TFは副腎皮質の間質細胞にも存在することが示された。しかし、副腎髄質にはこれら3種類のレセプターの発現を認めなかった。以上より、COUP-TF,DAX-1およびSF-1は副腎皮質ステロイド産生に重要であることが示唆された。 次に、副腎皮質腫瘍において検討したところ、CYP17の過剰発現を認めるコルチゾール産生腺腫において、COUP-TFI,COUP-TFIIおよびDAX-1の発現低下を認めた。一方、CYP17の低発現を認めるデオキシコルチコステロン産生腺腫において、DAX-1の高発現およびSF-1の発現低下を認めた。このことから、ヒト副腎皮質腫瘍において、これらのオーファンレセプターの局在が正常副腎皮質でみられた共存から解離していることが示された。さらに、この病的局在によりCYP17の発現異常を引き起こしていることが示唆された。 次にCOUP-TFによるステロイド産生異常を引き起こす標的分子を明らかにするために、コルチゾール産生腺腫組織からCOUP-TF-interacting proteinをyeast two-hybrid systemを用いてスクリーニングを開始している。本年度は、まずコルチゾール産生腫瘍よりcDNA libraryを作製することに成功した。平均insert cDNA sizeは、1.5kb程度であり、libraryの質的には満足しうるものであった。現在、COUP-TF-interacting proteinのスクリーニングを施行中である。
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