周生期に精巣から分泌されるアンドロゲンは未発達な神経回路に形成的な作用を及ぼし、脳を雄型へと構築する。アンドロゲンは脳内でエストロゲンに変換されて機能すると考えられており、それを触媒するアロマターゼの発現は、脳の性分化と深く関わっていると考えられる。申請者は、中枢神経で発現するアロマターゼ遺伝子の転写制御機構について個体レベルで検討し、脳の部位特異的な発現に必要な遺伝子領域を同定する目的で実験を行った。アロマターゼ遺伝子の脳特異的プロモーター領域に1acZ構造遺伝子を連結したトランスジーンを用いてトランスジェニック(Tg)マウスを作製し、βガラクトシダーゼ活性を指標として、脳における発現を観察した。今回の一連の研究において、エクソン1fの上流6.5kbのプロモーター領域を持ったTgマウス(f6lacZTg)の成獣では、視床下部腹内側核や扁桃体、視索前野などに発現が認められる事を示した。また、f6lacZTgマウスでは胎生期においても同様に、視床下部腹内側核や扁桃体、視索前野などに発現が認められ、その発現は出生前後に高くなることを示した。以上のようにf6lacZTgマウスにおけるlacZの発現は、脳における内在性アロマターゼの発現部位と発現パターンが良く一致しており、エクソン1fの上流6.5kbのプロモーター領域には、脳アロマターゼの部位特異的、および時期特異的発現を行うために必要なエレメントが含まれていることが示唆された。さらに、f61acZTgマウスとアロマターゼ遺伝子破壊(ArKO)マウスを交配させることにより、ArKO : f6lacZTgマウスを作出し、βガラクトシダーゼ活性を調べた。ArKO : f6l1acZTgマウスでは、Wild : f6lacZTgマウスと比べて、脳内のβガラクトシダーゼ陽性細胞の増加が認められ、エストロゲンは脳内アロマターゼの発現それ自身には、抑制的に作用するものと考えられた。
|