脊髄小脳性運動失調症原因遺伝子は1995年に報告された新規の遺伝子であり、近年トリプレットリピート病と呼ばれる3塩基リピートの遺伝子挿入による疾患遺伝子群の代表として注目を浴びている。一方、我々は、下垂体前葉ゴナドトロフ系列の細胞を用いて細胞特異的に発現する遺伝子をサブトラクションクローニング法を用いて解析していた。その結果、2量体で構成されている黄体化ホルモン(LH)のα鎖とLHβ鎖の両方を合成している細胞株に多く発現している遺伝子群の中に脊髄小脳性運動失調症原因遺伝子と同一の配列をコードするcDNAが存在していることが判明した。この遺伝子の発現は、下垂体前葉ホルモン産生細胞株では検出されず、同じゴナドトロフ系列の細胞株、例えばα鎖のみを合成する細胞などでも観察されない。この結果を発生段階に照らし合わせると未熟なα鎖のみを合成するゴナドトロフからα鎖/LHβ鎖の両方を産生するゴナドトロフに分化する過程で本遺伝子が発現していると思われる。更に、性腺切除によって下垂体ゴナドトロフを機能亢進状態にすると下垂体における本遺伝子の発現が増加する事も判明し、本遺伝子がゴナドトロピンの産生に関係していると考えられた。また、ホルモンを産生しない濾胞星状細胞株にも僅かな発現が認められ、このことは更なる下垂体における濾胞星状細胞の機能を考える上で非常に興味深い。そこで、更にin situ hybridizationおよび免疫組織化学、及び免疫電顕法を通じて、顕微鏡下でラット下垂体における本遺伝子を発現する細胞を同定し、その遺伝子産物の細胞内局在について観察しようと試みた。しかしながら、本遺伝子産物は、多くの免疫組織化学に使用される固定液に対して偽性反応を示すことが判明し、現在、本研究を遂行する上での最良の固定液の選択を模索している。
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