乳癌細胞の生物学的動態の違いがどの要因に起因するかを分子細胞学的に追究するため、本研究では新しい遺伝子制御のスクリーニング法を応用した基礎的な実験を計画した。本実験ではヌードマウス実験モデルを利用して高転移乳癌細胞株を作成し、乳癌細胞株が悪性化していく段階での遺伝子発現がどのように変化するかをcDNA expression arrayにて選択し、転移にかかわる遺伝子を突きとめることを目的とする。このスクリーニング法は対象とする組織あるいは物体(ウイルスなど)に発現しているRNAを抽出し、reverse transcriptaseによりcDNAを作成、放射性物質でマーキングして、あらかじめ膜上に配列された膨大な遺伝子情報と結合するcDNAをラジオグラフィにて選別するものである。この方法によりある特定の遺伝子だけに注目するのではなく、全般的な遺伝情報についてスクリーニングできる利点がある。 高転移乳癌細胞株の作成を目的に平成13年度は乳癌細胞株MDA-MB-468を用い、ヌードマウスの尾静脈に5×10^6個の細胞を注射して肺転移を形成させる実験を試みた。肺転移巣が形成された段階で転移細胞のprimary cultureを行い、更に経代的に尾静脈注入から肺転移巣を作成することを目的とした。結果的には乳癌細胞の増殖が遅く、初代転移巣は得られたものの、経代しても高転移株は今のところ得られていない。更に経代実験を重ね、高転移株の出現を待って遺伝子変異の同定をする所存である。
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