経時的に急性の胃炎から腸上皮化生に至る組織学的変化が起こってくるスナネズミH. pylori感染モデルを用い、H. pyloriにより惹起される胃炎と胃癌発生との関連をみるため、感染からの時期を変えMNU(N-methyl-N-nitorosourea)を投与し、胃炎の時期の違いで癌原性刺激の受けやすさに違いがあるか検討した。菌株はATCC43504標準株、スナネズミは7週齢の雄を用いた。H. pyloriを単回経口接種、感染を成立させた後、3群に分け5週後、15週後、25週後にMNUをそれぞれ10週間飲水投与した。さらに、MNUを10週間飲水投与した後、H. pyloriを投与をする群、H. pylori単独群を設けた。これら5群に対し、MNU投与終了20週後、50週後に屠殺(H. pylori単独群は週令を合わせ屠殺)、胃標本を摘出し、各群の胃癌発生率、組織学的変化を比較した。 MNU投与後20週では全群で胃癌の発生は認めなかった。MNUを前投与した群、H. pylori感染5週後にMNUを投与した群では過形成病変が多く認められ、H. pylori感染15週後、25週後にMNUを投与した群では潰瘍性病変が多く認められた。MNU投与後50週では、H. pylori感染後MNUを投与した各群とH. pylori単独群に少数ながら分化型腺癌の発生をみたが、各群に有意差はなく、未分化癌の発生はみられなかった。これらの群の組織学的変化をみると過形成、異形成病変を伴うものが多く、潰瘍性病変は少なかった。H. pylori感染後25週後にMNUを投与した群では、投与後20週までは潰瘍性病変を多く認めたが、癌が発生する時期には過形成病変が多くなっていた。 本検討においてH. pylori感染胃炎の胃発癌促進作用は示唆されたが、胃炎の時期の違いでは明らかな差を認めなかった。分化型腺癌は過形成、異形成病変に伴って認められた。
|