本研究では、基礎的検討として発癌機構においてのHMGI(Y)過剰発現の役割、意義を明らかにし、さらに消化器癌におけるHMGI(Y)発現を検討し、HMGI(Y)発現レベルが臨床的にブロードスペクトラムな腫瘍マーカー、予後因子になりえるか否かの解明を目的としている。我々はまず消化器癌のなかでも最も予後不良な膵癌におけるHMGI(Y)発現に関して以下の如く検討を行った。 対象は手術的に切除した浸潤性膵管癌組織15例(原発巣9例、肝転移巣3例、腹膜転移巣2例、リンパ節転移巣1例)、非腫瘍性膵組織6例(慢性膵炎2例、正常膵4例)を用いた。凍結切片を作成し、HMGI(Y)特異抗体を用いて通常のABC法により免疫染色を行い、蛋白発現について検討した。膵癌組織15例全例で核の濃染を認めたが、非腫瘍性膵組織では淡い核濃染像を認めるのみであった。また、膵癌組織9例、非腫瘍性膵組織からRNAを抽出後、HMGI(Y)特異的プライマーを用いてRT-PCRを行い、mRNA発現について検討した。膵癌組織9例全例にmRNA発現を認め、正常膵組織では、4例中1例(非慢性膵炎組織)に発現を認めたが、膵癌組織に比べ発現は明らかに低かった。以上の結果から、膵癌においてもHMGI(Y)が過剰発現していることが明らかとなった。腫瘍性病変におけるHMGI(Y)過剰発現の分子生物学的機構、意義は現在のところ不明であり今後の検討課題であるが、大腸癌同様、膵癌においてもHMGI(Y)過剰発現は発癌機構に深く関与していることが推察された。
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