研究概要 |
1.Barrett粘膜の発生を期待して,実験的慢性逆流性食道炎のラットを最長3か月にわたり経過観察した。3か月の段階で,食道炎は肉眼的にも組織学的にも認められるものの円柱上皮の発生は観察されなかった。しかし,混合型(胃液と胆汁・膵液)逆流性食道炎の食道粘膜では粘膜傷害の程度が酸型(胃液)逆流性食道炎ならびにアルカリ型(胆汁・膵液)食道炎と比較して増悪傾向にあった。したがって,Barrett粘膜もしくはBarrett食道の発生にはより長期的な観察期間が必要であると判断し,実験を継続中である。また,混合型食道炎の粘膜傷害がもっとも増悪傾向にあったことは臨床におけるBarrett食道の形成過程において報告されている胆汁・膵液の逆流の関与を示唆する結果であったものと考える。今後の課題は実際に円柱上皮の発生が生じるのか否か,また発生するとしたならば混合型において有意に認められるのか否かということにある。 2.慢性食道炎の形成過程において,炎症性サイトカインであるGro-αならびにIL-1αは確実に食道粘膜内に検出される。一方,対照群において検出はされない。しかし,その一方で食道炎の程度(食道粘膜組織傷害の程度)とこれらの炎症性サイトカインの濃度との間に一定の関係(正の関係)を見出すことはできなかった。このことは炎症の過程においてこれらのサイトカインがなんらかの役割を果たしていることを示唆するものである。しかしそれと同時に,食道炎の形成は多彩な因子に修飾されていることを裏付けるものと判断した。
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