研究概要 |
大腸癌の増殖・転移機構の詳細は解明されておらず、癌転移の過程に関与する多様な因子のどれがその成立のための鍵を握っているのかは明らかでない。細胞の増殖や血管新生に重要な役割を示す事が知られている線維芽細胞増殖因子(FGF)に着目し、大腸癌組織におけるFGFとそのレセプターの発現を検討する事とした。現在報告されている16種類のFGFグループのうち、FGF-7(Keratinocyte Growth Factor,KGF)は主に間質細胞で産生され、KGFレセプター(KGFR)を介して上皮細胞に作用すると言われており、膵臓癌や前立腺癌などの癌組織で過剰発現している事が報告されている。現在までに大腸癌組織におけるKGFとKGFRの発現に関する報告はみられておらず、ヒト大腸癌組織におけるKGFの役割とシグナル伝達経路を解明するため、分子生物学的手法(酵素抗体法、RT-PCR法、in situ hybridization法)を用いて検討した。 結果:KGFは正常部位の大腸組織では少数の線維芽細胞にその局在がみられ、大腸癌では主に癌細胞および癌周囲の線維芽細胞と神経内分泌細胞(特に腸クロム親和性細胞)に局在が認められた。RT-PCR法では大腸癌のKGFmRNA発現量は、正常部位に比べ増加がみられた。in situ hybridization法でKGFmRNAは、癌細胞と周囲の線維芽細胞および腸クロム親和性細胞に局在が認められ、KGFRmRNAは大腸癌細胞に局在がみられた。大腸癌において、大腸癌細胞および癌周囲の線維芽細胞と腸クロム親和性細胞で産生されたKGFが、大腸癌細胞に局在するKGFRを介してautocrine的、paracrine的に大腸癌増殖に関与している事を解明した。結論としては、KGFの役割は大腸癌増殖に関与しており、大腸癌組織で誘導されたKGFのシグナル伝達経路に関しては、癌細胞自身によるものと周囲の間質細胞によるものの2方向性の経路の存在が解明された。
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