研究概要 |
本年度には,次の2つの実験を行った.実験動物として体重約20〜27Kgの雑種成犬を用いた。径0.35mmのステンレスワイヤーを用い自家製のZ-ステントを作成、その周囲に有孔度150cc直径12mmと14mmのウーブングラフト人工血管を6-0ナイロンで縫合固定し、長径5cmのステントグラフトを作成した。全身麻酔下に腹部大動脈より16Frシースを使用して胸部下行大動脈にステントグラフトを内挿留置した。実験(1)ステントグラフト留置後1、2、3、4週後に犠死させ、胸部下行大動脈を摘出して組織学的検索を行った。実験(2)ステントグラフト留置後3日、1、2、3、4週後に開胸を行い、それぞれステントグラフト留置部大動脈壁を長径1cm,1/4周、中膜まで切除し、切除部大動脈壁を腹直筋筋膜で被覆する群と被覆しない群を作成した。大動脈壁切除後4週後に犠死せしめ、胸部下行大動脈を摘出して組織学的検索を行った。【結果】(1)ステントグラフト留置に伴う合併症は認めなかった。ステントグラフト留置部大動脈は弾力性が欠如し、同部壁側胸膜の血管拡張と易刺激性のうっ血を認めた。グラフトは大動脈壁と比較的密に接合していた。(2)ステント留置後の大動脈壁切除は容易に施行でき、大動脈壁切除面からの出血は圧迫にて止血可能であった。ステントグラフトが血管内腔に十分密着していれば内挿術後3日でも大動脈壁切除は可能であった。大動脈壁切除に伴うステントグラフトの損傷やmigrationは認めなかったが、1例で手術操作に起因すると思われるステントグラフトの変形を認めた。大動脈壁切除後の経過中に出血、migration等の合併症はみられなかった。組織学的には、2群間には明らかな差異は認めず、いずれもステントグラフト内面は薄いフィブリン膜で覆われており、一部には血栓の形成もみられたが、内腔は十分に保たれていた。ステントグラフト部の中膜には菲薄化を認めた。
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