研究概要 |
弓部及びその近傍の大動脈瘤手術に際し、補助手段として超低体温逆行性脳灌流法を用いた。その際近赤外線分光法を用いて、逆行性脳灌流中の酸化ヘモグロビン,還元ヘモグロビン,脳組織酸素飽和度を連続測定し、近赤外線分光法頭部酸素モニター上での安全限界値とそれに到達する時間(許容時間)を検討した。対象は成人症例15例であり、年齢は27〜85歳,男女比は3:2であった。最低鼓膜温18±0.6℃であり、逆行性脳灌流時間は26〜51分(平均41±3.5分)であった。術後脳神経障害は1例に静脈洞血栓症による脳梗塞を認めたが、体外循環中の脳灌流との関連性は乏しいと考えられた。体外循環前の脳組織酸素飽和度は51〜74%(65±10%)であり、全例冷却による温度低下に従って脳組織酸素飽和度上昇し、逆行性脳灌流開始直前では60〜85%(78±8%)となり体外循環前値との比は1.2±0.24であった。逆行性脳灌流開始と同時に時間経過に従って減少傾向に転じていき、逆行性脳灌流終了時点では46〜70%(59±10%)であり、体外循環前値との比率は0.82±0.1となった。逆行性脳灌流時間をX,脳組織酸素飽和度の変化率をYとして、脳酸素飽和度減少率を予測式で表すと、脳酸素飽和度変化率=1.043×e^<-0.005*逆行性脳灌流時間>となり、安全限界を0.7と仮定したならば、逆行性脳灌流許容時間は68分という結果に至った。今後さらに症例を重ねてより詳細な逆行性脳灌流中の単位時間あたりの脳内酸素飽和度の減少率を算出し、逆行性脳灌流許容時間予測式を確立したい。さらにS-100蛋白や動静脈乳酸値の変動から代謝面においてもその安全性について検討していきたい。
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