我々は既に組織工学的手法を用いて自己静脈壁細胞からなるTissue Engineered Vascular Autograftのin vivoでの作成を雑種犬において成功しており、今回はこの成果をさらに発展させ、自己細胞を播種した生体吸収性ポリマーをバイオリアクター内の一定の圧負荷環境下に長期間置き、より高い強度の自己血管をin vitroで作成し、生体吸収性ポリマーが完全に分解、吸収された時点で得られる自己細胞、間質のみから構成されるTissue Engineered Vascular Autograftの同一個体への移植による長期的な免疫組織学的、生力学的、生化学的評価を行うとともに、同手法の応用による凍結保存同種組織開発を目指している。 平成12年度は下記の実験を施行した。 (1)細胞採取、培養:実験動物として子犬を用い、大腿静脈、皮下組織を清潔下に採取し、自己細胞の起源とした。通常の細胞培養手法を用いて単離された細胞の大量生産を行った。 (2)Tissue Engineered Vascular Autograftの作成:細胞支持体としてホリカプロラクタム(PCL)シートを用いた人工血管を作成し、それに採取した自己細胞を播種した。皮下繊維芽細胞播種群、静脈壁混合細胞播種群の2群間で比較検討した。生体内や培養液中で非酵素的に加水分解されるPCLは数週間の間にほぼ支持体としての機能を失い、増殖したそれぞれの播種細胞と細胞外間質からなるTissue Engineered Vascular Autograftが得られた。本研究においては、PCLの吸収並びに播種細胞、細胞外間質増殖をバイオリアクターを用いたin vitroでの一定の圧負荷環境下で行わせることにより細胞外間質の増生を促し、細胞支持体の補助なしで一定レベルの強度を持つ血管の作成が可能であると考えている。PCLの加水分解をin vitroで完了させる理由は、十分に増生した細胞外間質による組織支持機能が生体吸収性ポリマーのそれを上回ると考えられ、さらに、後述する凍結保存時において細胞支持体としての強度保持が不確実であるためであるPCLの加水分解が完了した時点で上記2種の細胞起源ごとに免疫組織学的、生力学的、生化学的比較検討をおこなう。今後、生化学的検査として組織中のコラーゲン、エラスチン、カルシウム濃度の測定を行い、生力学的検査としてインストロン張力検査機を用いて作成された組織の最大張力を測定し自己の静脈壁と比較検討する。
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