研究概要 |
神経損傷におけるアポトーシスの関与及び低体温療法による保護効果を検討するために,我々は様々な脳損傷モデルを作成し病態解明に努めてきた.Taki ら(Nagoya Med.J 2000)は,局所脳虚血損傷後のアポトーシス関連遺伝子の発現を検討し,虚血周辺部でのbaxおよびp21遺伝子の発現亢進とapopototic cellsの出現を示した.Nakatsuka ら(Nagoya Med J 2000)はくも膜下出血後の海馬神経損傷におけるアポトーシスの役割を研究し,海馬CA1領域における関連遺伝子の発現経過を明らかにした.Kanano ら(NeuroReport 2000)は凍結脳損傷でp53,p21遺伝子発現からアポトーシスの経路が損傷拡人に寄与する事を示した.つまり神経損傷においては初期損傷に続く2次障害にアポトーシスが深く関わっている事は確実であり,それを抑制することが後遺症の軽減につながると考えられた.アポトーシス抑制のために種々の薬剤が推奨されてはいるが,副作用等の面で臨床応用に耐えない.低体温療法は重症頭部外傷の治療として用いられているが,基礎データの裏付けに乏しい.Kawamura ら(J Neurotrauma 2000)はくも膜下出血モデルを用い,低体温治療後にhsp70,c-jun遺伝子の発現が抑制され,虚血ストレスが緩和される事を示した.またアポトーシス細胞の出現が抑制されるというprelimimaryなデータも有している.Shibayama ら(J Comp Neurol 1998)のデータによれば,脊髄損傷後の逆行性変性にもアポトーシスの関与が示唆された.我々は現在脊髄損傷後の浮腫に注目している.損傷周囲での浸透圧調節遺伝子(SMITやAquaporin)の発現亢進を明らかにし,これによる2次性損傷がアポトーシスを誘導するものと推測している.脳外傷では低体温が脳浮腫の抑制に有効であることから,脊損に置いても治療効果が期待され,その基礎実験が進行中である.
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