平成12、13年度を通じ、(1)BDNF遺伝子の細胞への導入、(2)ラット脊髄慢性圧迫モデル(sublaminal progressive compression model)の作成を行ってきた。 (1)BDNF遣伝子のプラスミドとネオマイシン耐性遺伝子のプラスミドを同時にリポソーム法にてNRK細胞(ラット正常腎臓由来)へ導入した。遺伝子導入操作を終えた細胞をG-418(neomycin analogue)存在下で培養した。生き残った細胞をクローニングし、それらをSouthern blot法にてBDNF遺伝子が導入されているか確認した。これにより6個のクローンにBDNF遺伝子が導入されていることを確認した。さらに、これらの細胞株についてNorthern blot法を用いてmRNAが導入されているかを確認した。これにより、4種類のクローンでBDNF mRNAが確認できた。これらの4種類の細胞株に対してWestern blottingを行い、細胞内でBDNF蛋白が産生されているかの確認を行ったところ、すべての細胞株でBDNFの産生が認められた。さらに、酵素結合イムノソルベント検定法(ELISA)を行い、細胞の蛋白産生を確認した。以上により4種類のBDNF産生細胞株を樹立した。 (2)Wister ratを用い、全身麻酔下にて、第5、第6頚椎椎弓下にcompression materialを挿入し慢性圧迫モデルを作成した。術後、自発的運動量と、強制運動量を回転式運動量測定ケージおよびトレッドミル、傾斜姿勢維持測定板にてそれぞれ計測した。術後、24週になると運動機能の低下が見られ始める。この時期には、脊髄前角細胞も減少してくるのだが、ここで全身麻酔下にて、BDNF産生細胞とc-fos産生細胞であるNf-1細胞をそれぞれ1×10^6 cellsずつ脊髄圧迫部位に移植した。また、BDNF産生細胞およびc-fos産生細胞の単独移植群も作製した。その後、細胞移植をしていないcontrol群とBDNF産生細胞+c-fos産生細胞同時移植群、BDNF産生細胞群単独移植群、c-fos産生細胞単独移植群それぞれについて、自発的運動量、強制運動量を測定した。 その結果、26週目以降、control群とc-fos産生細胞単独移植群では、引き続き運動量が減少したのに対して、BDNF産生細胞群単独移植群では、強制運動量には低下が見られたものの、自発的運動量低下が停止する傾向がみられた。さらにBDNF産生細胞+c-fos産生細胞同時移植群では、自発的運動量、強制運動量ともに回復がみられる傾向があった。この26週目と28週目、さらにそれ以降の時点で、ラットを経心潅流固定し脊髄を採取し、移植部位の連続切片を作成し、それぞれの群での前角細胞の形態学的変化と細胞数の計測を行っているが現在のところ有意な差は見られていない。さらに多くのラットを用いて検討を加えたが、統計学的な有意差は見られていない。現在、移植後早い時期での移植部位についても同様な検討を行っているところである。その上で、再度統計学的に様々な角度から検証していくことにしている。
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