研究概要 |
成猫を用い、1椎体、2椎体、3椎体の脊柱短縮モデルの作成を行った。また、比較対照として従来から行われてきた牽引力を主体とした矯正手術を想定し、脊柱伸張群も作成した。1椎体短縮群では、硬膜管は若干の雛壁形成を伴うものの脊柱管内に完全に収納され、脊髄誘発電位に変化を認めなかった。2椎体および3椎体短縮群では、短縮を開始すると硬膜管は徐々にたわみを生じ、屈曲変形を呈した。しかしながら、脊髄が屈曲蛇行したにもかかわらず脊髄誘発電位は正常に保たれ、椎弓の残存部で脊髄に直接の圧迫が加わった時点で電位は低下を開始した。椎弓切除の範囲を拡大し、圧迫因子を除去すると脊髄の障害は回避できた。屈曲蛇行変形した脊髄には、組織学的にも出血、浮腫等の明らかな病的変化は認めなかった。脊髄伸張群では、1椎体分椎体間を開大させた時点で脊髄誘発電位は消失し、脊髄は障害された。今回の実験で判明したことは、脊柱短縮に比べて、脊柱伸張時には容易に脊髄に障害が起こりうることである。この点を鑑みると脊柱の変形矯正の手術としては、従来の牽引力に頼った方法よりも椎体部分切除や骨切り術を併用した短縮術を選択したほうが安全性が高いといえる。本実験では1椎体分以内の短縮であれば脊髄は問題なく脊柱管に収納され、障害は発生しなかった。また、2椎体以上の短縮では椎体切除分より椎弓切除の範囲を大きくすることにより屈曲蛇行した脊髄の機能を保護することが可能であったが、実際に人体で同様の手術を行なった際にはたわんだ脊髄が長期にわたりその機能を保持しえるか否かという問題が残った。以上の事実を踏まえてわれわれは脊柱変形の矯正手術のひとつの方法として短縮術を臨床の場に導入した。現時点では一椎体の短縮にのみ限定しているが、特に問題となる合併症は生じず、良好な手術成績を得ている。 本研究の詳細は第15回International Congress of Clinical Neurophysiology (Buenosaires,2001.5)にて発表した。
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