研究計画は、水棲カタツムリLymnaea Stagnalisの中枢神経節を摘出しトリプシン処理した後、RPeD1神経細胞をマイクロピペットで採取し培養液(コントロール群)および神経成長因子(NGF)を含有した培養液(NGF群)、興奮性神経伝達物質ドパミン1μMを含有した培養液(DOPA群)、興奮性神経伝達物質グルタミン酸1μMを含有した培養液(Glutamate群)、抑制性神経伝達物質GABA1μを含有した培養液(GABA群)の5群にそれぞれ分けて培養し、シナプスを形成させた後に2個の神経細胞間の興奮伝達を細胞内カルシウム濃度の変化を同時に測定し、刺激側の細胞の活動電位の発射回数に対する記録側の細胞の活動電位の発射回数、細胞体におけるカルシウムイオン濃度の経時的変化をコントロール群と比較する実験である。 結果は、コントロール群(n=12)においては大半(90%)が抑制性シナプスであったのに対し、NGF群(n=14)では興奮性シナプスおよび抑制性シナプスともに同じ割合であった。DOPA群、Glutamate群では興奮性シナプスが有意に多く形成され(DOPA群、興奮性シナプス:60%、n=12)、(Glutamate群、興奮性シナプス:90%、n=12)GABA群では抑制性シナプスが有意に多く形成された(抑制性シナプス:70%、n=14)。さらに、Glutamate群においては刺激側の細胞の刺激に対して記録側の細胞の細胞内カルシウムイオン濃度上昇を伴う活動電位の発射回数の増加が観察された。 以上の結果からRPeD1細胞では、シナプスを形成する過程において、NGFがシナプス伝導の形態を決定するのではなく、神経伝達物質の種類やその濃度などの因子がシナプス伝導の形態を決定する可能性が示唆された。そして、慢性疼痛のメカニズムの1つは、グルタミン酸などの興奮性神経伝達物質の過剰分泌もしくは過敏反応ではないかと結論した。
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