本年度は、リンゲル液中の酸素分圧とフリーラジカル発生との関連および局在部位の同定を行い、それに及ぼす揮発性麻酔薬の影響について検討した。 1.ESR(Electron Spin Resonance)法による酸素由来フリーラジカルの同定 昨年度は、揮発性麻酔薬であるセボフルランが高濃度酸素存在下において酸素由来フリーラジカルの生成を増強させることをニトログリセリン耐性モデルにおいて確認したが、今年度はスビントラップ剤であるDMPOを用い、酸素分圧の異なるKrebs Ringer液中における酸素由来フリーラジカル発生の同定を行った。その結果、セボフルランをリンゲル液中に投与しただけでは酸素濃度依存性のフリーラジカル産生は認められず、セボフルランによるラジカル産生増加は血管平滑筋細胞内で発現されていることが示唆された。 2.NOラジカル(peroxinitrite)生成に対するセボフルランの影響 peroxynitrite(ONOO)scavengerであるebselenを用いてセボフルランの血管作用を検討した結果、セボフルランはebselen類似のperoxynitriteによる血管作用の抑制を示した。この結果から、セボフルランのラジカルへの作用はNOラジカル増加ではなく酸素ラジカル増加であることが示唆された。 3.以上の結果を統合的に解析し、揮発性麻酔薬であるセボフルランは、高濃度酸素存在下において血管平滑筋細胞内で酸素由来フリーラジカル生成を増強させ、血管平滑筋細胞内NO-sGC-cGMP系のdesensitizationが生じることが確認された。そのため虚血再潅流傷害に対する麻酔薬による保護作用(preconditioning)に関しては麻酔薬による差異を考慮する必要性がある。
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