研究概要 |
数々の鎮静薬が免疫機能に影響することは良く知られているが、実際、ICUにて使用される鎮静薬が患者の免疫機能に与える影響を調べた研究はない。当初、ミダゾラムが好中球のアポトーシスに与える影響を実際の患者において調べることを目的としていたが、SIRSの患者では、その病態自体によって好中球のアポトーシスが強く抑制されており、また、同時に使用される薬剤の多くが好中球のアポトーシスに影響する為、差を見出すのが困難と判断。前年度の研究で、in vitroにおいて、TNF-αが血管内皮細胞上のE-selectin発現を刺激する現象を、ミダゾラムがdose-dependentに強く抑制するのを観察。SIRSからMOFを引き起こす過程には、これらサイトカインや接着因子が大きな役割をはたしていることより、このミダゾラムの使用で、接着因子の発現を抑えることにより、SIRSからMOFに移行する過程を阻害するように働いていると予測することができる。これを臨床的に確認する為に、本人あるいは家族に承諾を得た上で、人工呼吸を要し、さらに、持続的な鎮静を必要とする患者をランダムに3群に分け、それぞれを、ミダゾラム群、プロポフォール群、塩酸モルヒネ群として鎮静を行った。測定項目は、ICU入室時のAPACHE II score、鎮静中のMOD score、鎮静中のVAP,ARDSの有無、Mortality,血中のsICAM-1,E-selectin,IL-6,Fas-L、CRP,WBPの測定(一日一回)を行った。現在までのところ、プロポフォール群、12名、ミダゾラム群9名、塩酸モルヒネ群8名である。最も重要と思われる結果は、2日以上鎮静薬を必要とし、2回以上、採血を行っているものでは、ミダゾラム群において有意に、経過と伴に、sICAM-1,E-selectinが減少傾向にあったことである。この現象は、プロポフォールや塩酸モルヒネによる鎮静では見られず反対に上昇傾向が見られた。このことが予後に及ぼす影響は、今までのところ有意差を見出すに至っていないが、症例数を増やすことにより差が現れるかもしれない。
|