雄の尿道は膀胱とは異なり尿路であると共に精路としての役割を果たしており、後部尿道は発生学的に起源を異にする2つの部分からなる。今回の実験では、発生学的に起源を異にする後部尿道の近位部分と遠位部分についてmAChR刺激に対して反応に差を認めるか否かを検討した。 ウサギ後部尿道を前壁の正中で縦切開、尿道膀胱移行部から精阜までを近位部分、精阜から後部尿道終点までを遠位部分として等尺性収縮実験を行った。 Resting stateでは、mAChRの非選択的作動薬であるcarbacholの添加により近位部分の濃度依存的な収縮が認められたが、遠位部分では明らかな張力の変化を認めなかった。Nitric oxide synthaseの拮抗薬であるNG-nitro-L-arginine(NOARG)の前投与により、carbacholによる近位部分の収縮反応が増強され、遠位部分では収縮反応が出現する傾向を認めたが両者共に有意ではなかった。遠位部分においてnoradrenaline(NA)(10-5M)での前収縮後にcarbacholを添加すると濃度依存性に弛緩が認められ、この反応はNOARG存在下では濃度依存性の収縮反応に変わった。これとは対照的に、近位部分では、NAで前収縮後にcarbacholを添加すると、NOARGの存在の如何に関わらず収縮反応が認められた。 本実験での雄ウサギ後部尿道のcarbacholに対する部位別反応差はmAChRの分布密度や各受容体亜型の分布の相異ではなく、NO生成系の関与の尿道の部位別差異が存在することにより発生するものと想定された。
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