妊娠中毒症の中でも母児の予後が悪いとされる妊娠高血圧症(HP)と血管内皮型一酸化窒素合成酵素(eNOS)遺伝子多型(Giu298Asp)との関連を検討するため、妊娠高血圧症152例(初産90例、経産62例)および正常妊娠対照335例(初産191例、経産144例)について解析を行った。HPおよびHPのなかでも蛋白尿、浮腫を伴うpreeclampsia(PE)の診断基準は、1990年のアメリカ合同委員会のものに従った。遺伝子タイピングは、全血100ml中の白血球より抽出したDNAを鋳型として、制限酵素BanIIを用いたPCR-RFLP法により行った。 ヘテロ接合(GA)とAsp298のホモ接合(AA)をあわせた頻度は、HPでは23%と、対照の12%に比べて有意(p<0.01)に高かった。初産経産別にみると、初産HPは21%は、初産対照の12%に比べて、経産HPの26%は、経産対照の13%に比べてそれぞれ有意(p<0.05、p<0.01)に高かった。PEについてみると、GA+AAの頻度は23%、また、初産PEでは20%、経産PEでは29%と、HPと同様に、経産の群において高い傾向を示した。 さらに、同対象におけるアンジオテンシノーゲン遺伝子(AGT)多型(M235T)解析結果ともあわせて多変量解析を行うと、eNOS遺伝子GA+AA型は、AGT遺伝子TT型と独立にHPに関連していた。 本研究の結果から、eNOS遺伝子多型とAGT遺伝子多型は異なった機序でHP発症に関与していることが示唆された。今後、この知見を発症予防に応用していくためには、生活習慣要因等の要因とこれらの遺伝要因との交絡状況を解析することが課題と考えられる。
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