妊娠中毒症は、複数の遺伝的要因と環境的要因の相互作用によって発症する多因子疾患と考えられ、従来、様々な方法でその発症予知と早期介入が試みられているが、未だにその発症機構は不明で、効果的な発症予知法もない。申請者らは、今までに、北海道内の妊娠中毒症の症例約150例と、正常妊娠の対照約400例のDNAを解析し、アンジオテンシノーゲン(AGT)遺伝子M235T多型、アンジオテンシンII受容体(ATR)遺伝子A1166C多型が本症の発症に有意に関連することを見出した。また、AGT、ATR遺伝子多型と、妊娠前・妊娠中の環境要因との交絡、相互作用を多変量解析により検討した結果、(1)AGT遺伝子T235ホモ接合型、(2)妊娠前のBody Mass Index(BMI)が24以上、(3)妊娠中の牛乳摂取不足、(4)妊娠中の揚げ物摂取過剰、(5)妊娠中の精神的ストレスの5項目が独立に関連した。さらに、対照集団をAGT遺伝子のタイプで2群に分けて樹木法・多変量解析すると、T235ホモ接合型群と、その他の群とでは異なった要因が、それぞれ独立に関連することを見出した。 今回は、新たな遺伝子多型要因の解析を行い、一酸化窒素合成酵素(eNOS)遺伝子Glu298Asp多型が妊娠中毒症の発症に関連し、またこれはAGT遺伝子多型とは独立であることを見出した。また、アンジオテンシン変換酵素遺伝子Insertion/Deletion多型、血液凝固第V因子遺伝子(Leiden変異)、MTHFR遺伝子C677T多型、β3-アドレナリン受容体T64A多型は、日本人の妊娠中毒症には関連しないとの結果を得た。 今後、AGT、eNOS遺伝子多型を組み合わせて、妊娠前・妊娠中の環境要因との交絡、相互作用を樹木法・多変量解析にて検討し、マーカーとしての応用を目指したいと考えている。
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