非妊娠時および分娩時の子宮頚部組織の一部を用いて、組織中のヒアルロン酸合成酵素遺伝子(HAS)発現を、Quantitative Real Time RT-PCRを行ない測定した。その結果、(1)子宮頚部にHAS1、HAS2、HAS3が発現すること、(2)HAS2、HAS3の発現が、HAS1の発現に比較して、増強していること、(3)HAS2の発現は、分娩直後の子宮頚部において、著明に低下することが認められた。以上より、子宮頚部におけるHASの発現は、分娩時と非妊娠時において異なることから、HASが子宮頚部熟化に関与することが推定された。さらに、HAS抗体を用いた免疫組織学的検討により、その局在部位は、子宮頚部線維芽細胞であることが確認された。また、培養ヒト子宮頚部線維芽細胞を用いて、HAS発現の変化を検討した。妊娠後期の子宮頚部熟化時に子宮頚部組織に誘導されるサイトカインおよびエストロゲン、プロゲステロンを培養液中に添加し、熟化した子宮頚管の状びを再現した。その結果、IL-1β添加によりHAS2、HAS3発現が、濃度依存性および時間依存性に増強した。IL-8、エストロゲン、プロゲステロン添加では、発現の変化は認められなかった。また、HAS1の発現は認められなかった。以上より、子宮頚部熟化時のHA代謝に関与するのはHAS2、HAS3であり、IL-1βがその作用を増強させるケモカインであることが推定された。さらに、細胞内シグナル伝達経路を検討する目的で、IL-1レセプター・アンタゴニストおよびactivating protein-1(AP-1)系を特異的に抑制する物質であるSB203580を用いて同様の検討を行ない、IL-1βは、IL-1レセプターとAP-1系を介して、HAS発現を引き起こすことが推定された。 われわれの既報の所見、および以上の結果より、IL-1βがHAS発現を引き起こすことにより、ヒアルロン酸産生を促進する。特に低分子ヒアルロン酸を誘導するHAS2およびHAS3が、この経路に関与していることが、推定された。したがって、HAS2およびHAS3の発現を促すことにより子宮頚部の熟化を引き起こすことが理論上可能であることが示唆され、今後は新規薬剤の開発に向けた検討を行う予定である。
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