ラット新生仔低酸素性虚血性脳症モデルを確立し、またMRIよる脳虚血性病変の経時的変化の観察に成功した。すなわち生後3週齢SDラットの一側頸動脈を結紮し実験用MRI装置内に固定、8%の低酸素を負荷すると、頸動脈結紮側の拡散係数が低下することが確認された。コントロール群として頸動脈結紮単独群および低酸素負荷単独群においても同様の観察を行ったが、いずれも拡散係数の低下は認められなかった。頸動脈結紮および低酸素負荷群における拡散係数の推移には、低酸素15分負荷群では主として一過性低下パターンが認められ、拡散係数回復後は明らかな変化は認められなかった。しかしながら48時間後の病理組織学的検索では選択的神経細胞死が多数認められた。低酸素30分負荷群では低酸素負荷中に拡散係数が低下し、蘇生とともに回復、しかし24から48時間後に再び低下するという2相性低下パターンが認められた。この群においては病理組織学的に脳梗塞が認められた。低酸素60分負荷群では低酸素負荷中に拡散係数が低下し、蘇生後も回復しない、持続性低下パターンが主として認められ、全例が12時間以内に死亡した。病理組織学的には著明な脳の腫大を伴う脳梗塞が存在した。以上よりMRIによる脳内拡散係数の経時的変化を観察することにより、その病理学的予後を予測可能であることが明らかとなった。一過性拡散係数低下群における選択的神経細胞死がいつ、どの様な機序で(necrosis or apoptosis?)発生しているのかを明らかにすること、2相性低下群における拡散係数の一過性回復期がtherapeutic windowとなり得るかを明らかにすることが今後の課題となる。
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