昨年度の本研究においてラット新生仔低酸素性虚血性脳症モデルの脳内拡散係数の経時変化には、一過性低下群、二相性低下群、持続性低下群の3つのパターンが存在し、それぞれが病理組織学的に選択的神経細胞死および脳梗塞に対応することを明らかにした。本年度の研究では、二相性低下群における一過性拡散係数回復期が、therapeutic windowとなり得るか、すなわち組織学的な回復を意味しているか否かを明らかにすることを目的とした。 生後3週齢SDラットの一側頸動脈を結紮し実験用MRI装置内に固定、8%の低酸素を30分間負荷し、低酸素負荷中の第1回拡散係数低下期、蘇生後の拡散係数回復期、48時間後の第2回拡散係数低下期にラットを灌流固定し、光学顕微鏡および電子顕微鏡によりその病理組織所見を検討した。 第1回拡散係数低下期の光顕所見では、神経細胞核の淡明化、間質の粗鬆化が認められ、電顕にて前者は神経細胞核内のクロマチンの凝集、後者は神経細胞樹状突起の膨化に対応していることが判明した。拡散係数回復期の光顕所見では、神経細胞の萎縮、神経膠細胞の膨化、血管周囲の淡明化を認め、電顕にて神経細胞はdark neuron change、神経膠細胞ではperivascular astrocytic end-frrtの膨化が認められた。第1回拡散係数低下期の光顕・電顕所見では神経細胞のさらなる萎縮と神経膠細胞の著しい膨化が認められた。以上の所見から、一過性の拡散係数の回復は神経細胞の萎縮と神経細胞の膨化のバランスにより生じた見方け上の正常化である、神経細胞自体が回復したことを意味するものではないことが明らかとなった。したがってこの時期のtherapeutic windowとしての意義は少ないと考えられた。
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