研究概要 |
線維芽細胞増殖因子(FGF)は、血管新生、創傷治癒、中胚葉誘導などのさまざまな領域において多機能な作用を有する生理活性物質である.FGF-7はKeratinocyte growth factor(KGF)と呼ばれ、間質細胞から産生され上皮細胞に作用するパラクリン型増殖因子として注目されている.着床成立後のトロホブラストの増殖ならびに分化機能の制御への関与が推察される.本研究では、ヒト絨毛細胞および初期胚細胞に対するKGFの影響について検討した.ヒトトロホブラストおよび初期胚細胞に、それぞれ極めて類似した性格を有するヒト絨毛癌細胞株BeWoと卵巣テラトカルチノーマ由来細胞株PA-1を用いた.BeWo細胞、PA-1細胞およびヒト子宮内膜間質細胞においてKGF遺伝子発現が観察された.BeWo細胞では、分化誘導させることによりKGF遺伝子発現が増強した.分泌期内膜と脱落膜では、KGF遺伝子発現が増殖期内膜に比較して強かった.KGFR遺伝子をBeWo細胞において認めたが、PA-1細胞ではみられなかった.KGFの添加はBeWo細胞とPA-1細胞の増殖の増殖に影響を与えなかったが,BeWo細胞のhCG分泌量を有意に増加させ,KGFのhCG分泌促進作用は分化誘導後のBeWo細胞でより顕著であった.KGFはヒト絨毛細胞の分化を促進することにより、初期の胎盤形成過程において重要な役割を持つ可能性が示された.子宮内膜間質細胞とトロホブラストから産生されるKGFは、トロホブラストにおけるKGF受容体を介してオートクリン・パラクリン機構によりhCG分泌を促進し、妊娠緒持に働く可能性が示唆された.現在,FGF-10の子宮内膜細胞における役割について研究中である.
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