子宮循環を観察する前に、全身における妊娠時の血流動態の特異性について検討した。 動脈硬化において、酸化LDL(以下ox-LDL)による発症機構が広く受け入れられており、ox-LDLのさまざまな機能が解明されている。ox-LDLは強い化学賦括活性を持ち、血管内膜層での単球のマクロファージへの分化、接着分子の発現を促進し、血管内皮傷害・機能障害を起こしており、炎症性変化の惹起に関わる可能性が示唆されている。妊娠中毒症においても高脂血症が見られLDLの被酸化性が亢進していることが明らかにされている。また妊娠中毒症の病因についてはまだ明らかでないが、血管内皮細胞障害と細動脈の血管攣縮に基づく末梢循環不全が基本病態として認識されつつある。妊娠中毒症の血管内皮障害においてもox-LDLが関与している可能性が推測される。今回我々は酸化LDLの血管内皮にあたえる影響、白血球-血管内皮接着反応について検討した。酸化LDLを投与し、腸間膜の細静脈を生体ビデオ顕微鏡を用いて撮影した。赤血球速度を、RBC velocimeterにて測定、白血球速度、接着白血球数を観察した。ox-LDL投与により妊娠群、非妊娠群双方で白血球の対赤血球相対速度低下、接着白血球数の増加が観察され、白血球と血管内皮との接着反応が増強することが示された。また、妊娠群では非妊娠時にくらべ白血球の対赤血球相対速度低下が少なく、接着反応の抑制がおこっていると推測された。妊娠時はox-LDLの作用に対し抑制的な状態にあり、酸化ストレスに対し防御的な状態にあると考えられた。
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