卵巣癌細胞株14株の全ゲノムをCGH(Comparative Genomic Hybridization)法により比較してGenomic Imbalance(GI)の頻度の最も高い細胞株5株と最も低い細胞株5株を選別し、限界希釈法にて単一細胞化した後、継代を続けてFISH(Fluorescence in situ hybridization)法にて染色体数の経時的変化を観察した。単一細胞から25回継代する過程で、1染色体あたり1%以上の高い割合で染色体の増幅や欠失が発生する細胞株2株を認めた。この2つの細胞株では微小管破壊薬剤であるコルセミド処理を行ってもM期で停止せず、p53などの細胞周期チェックポイント遺伝子に異常があることが確認された。卵巣癌の一部に細胞周期チェックポイント遺伝子の異常による染色体不安定性を示すものが含まれることが明らかになった。これは抗癌剤として用いられる微小管破壊薬剤が無効な卵巣癌症例の病態を説明するものと考える。 一方、子宮内膜症手術時に採取した複数の病変部からDNAを抽出し、CGH法によりGIを検出した。FISH法により染色体異数性の有無と、GI領域中に含まれる遺伝子の増幅/欠失の有無を確認した。卵巣チョコレート嚢胞壁にGIを認めた12例中6例では腹膜病変部および正所性子宮内膜には異常を認めなかった。左右のチョコレート嚢胞壁が比較可能であった6例中4例で、非共通のGIを認めた。同一症例内であっても病変部によって異なる染色体異常を呈することより、子宮内膜症の病態に染色体不安定性が関与することが示唆された。 上記の細胞において、細胞周期チェックポイント関連遺伝子の塩基レベルでの異常の有無の解析を現在行なっている。
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