卵巣癌細胞株14株の全ゲノムをCGH(Comparative Genomic Hybridization)法により比較して、Genomic Imbalance(GI)の頻度の最も高い細胞株5株と最も低い細胞株5株を選別し、限界希釈法にて単一細胞化した後、継代を続けて染色体数の経時的変化をG-band法並びにFISH(Fluorescence in situ hybridization)法を用いて観察した。その結果、単一細胞から25回継代する過程で、1染色体あたり1%以上の高い頻度で染色体の増幅や欠失が発生する、染色体不安定性を呈する細胞株2株を認めた。この2株では微小管破壊薬剤であるコルセミド処理を行っても細胞周期がM期で停止せず、細胞周期チェックポイント機構に異常があることが確認された。このことの臨床的意義を検討する目的で、本学倫理委員会の承認を得て、文書によるインフォームドコンセントを取得して、当科にて治療中の卵巣癌症例から採取した検体を解析した結果、同様の異常をきたしている症例の存在が確認された。現在これらの症例には卵巣癌に対する標準的化学療法が行われており、細胞周期チェックポイント機構の異常の有無が抗癌剤の奏効率に与える影響について今後明らかになるものと期待される。 一方子宮内膜症症例についても同様の解析を行った結果、一部の症例では子宮内膜症性卵巣チョコレート嚢胞壁においても染色体不安定性が存在することが明らかになった。そこで染色体不安定性を惹起する細胞周期チェックポイント遺伝子群のうち、卵巣癌と共通した異常と子宮内膜症性卵巣嚢胞に特異的な異常の選別などを現在行っている。
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