p53遺伝子治療では、正常型p53発現アデノウイルスを直接腫瘍内に注入することにより癌増殖を抑制するとされているが、その作用機序の詳細は明らかにされていない。本研究は頭頸部扁平上皮癌細胞において転写因子である正常型p53により誘導される遺伝子を検索し、その癌増殖抑制機序を解明すること目的としたものである。当初、蛍光Differential Display法を用いる予定であったが、この方法よりもDNAチップ(DNAマイクロアレイ)を用いて遺伝子発現の変化をとらえる方法がより効率的で本研究の目的にかなうと考え、研究期間途中で方法を変更した。 昨年度までの実験において、いくつかの遺伝子の正常型p53による発現変化の可能性が示唆されたが、本研究の限られた時間では、その再現性を繰り返し確認することが困難であった。そのため、用いた頭頸部扁平上皮癌細胞細胞株において、現時点で正常型p53により発現調節される遺伝子と確実に同定できたものはない。したがって発現パターンの解析をおこなうこともできなかった。 また、本年度途中に日本でp53遺伝子治療の臨床治験を進めていた企業がこの臨床治験から撤退することとなり、p53遺伝子治療の効果に疑問がもたれ始めている状況である。今後の方針として、さらにこの研究を進め正常型p53およびp53により誘導される遺伝子産物の癌増殖抑制機序を解明することがどのような意味を持つのか、あらためて問う必要があると考える。
|