正常マウス内耳の細胞・細胞外基質間の接合部を形態学的にまた抗インテグリン抗体を用いて免疫組織化学的に解析していく上で、本年度の研究において以下の知見を得た。 1.界面活性剤で処理した内耳蝸牛の凍結割断組織を走査型電子顕微鏡を用いて観察した。 (1)コルチ器を構成する有毛細胞および支持細胞の細胞接合部位や、支持細胞と蝸牛基底板の細胞・細胞外基質間の接合部を裏打ちする部分にはアクチンに相当する非常に密な細胞骨格構造が認められ、これらを微小管束が連結する規則的な3次元的ネットワークが認められた。この構造は音刺激の振動受容器であるコルチ器の剛性を維持する上で重要な役割を担っていることが示唆された。 (2)有毛細胞不動毛間の細胞外架橋構造が、脱膜処理を行った試料においても不動毛の細胞骨格に連結されており、その接合部には径50-70ナノメートルの円盤状の構造が認められた。これらの構造は不動毛間の細胞外架橋構造の付着部にあると考えられている機械電気変換イオンチャンネルが作動する際に、その働きを修飾する可能性があると考えられた。 2.抗β1インテグリン抗体(ケミコン社より市販、カタログNo.MAB1997)を用いて成体および発生期のマウス蝸牛におけるβ1インテグリンの発現部位を免疫組織化学的に光学顕微鏡レベルで観察した。蝸牛外側壁の血管条にβ1インテグリンの発現が認められた。発生0日より弱い発現が認められ、生後15日目に染色強度は成体のレベルに達していた。この時期はマウス蝸牛の血管条の成熟と内リンパ電位の形成時期に一致しており、β1インテグリンが血管条の器官形成に関与している可能性が示唆された。
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