GBSTの伝道経路を検討するため、当科で中頭蓋窩法により手術を施行した聴神経腫瘍症例において、術前・術後にGBSTを施行し、その結果を起源神経、カロリックテスト、聴力レベルと比較した。その結果、術前VEMPの検出された11例中、4例で術後もVEMPが保たれていた。下前庭神経由来の聴神経腫瘍10例中3例でVEMPが保存され、VEMPの伝導経路は下前庭神経のみではなく、上前庭ないしは蝸牛神経も関与すると思われた。下前庭神経由来症例中のVEMP保存例では聴力レベルは正常に保たれ、術中所見では上前庭神経は保存された。これら3症例すべてで、カロリックテストよりもABRの結果のほうがVEMPの結果との関連が見られた。そのうち1症例ではVEMPの潜時は術後短縮し、術前に存在した伝導障害の解除が考えられた。蝸牛神経を介した伝導経路としては、直接蝸牛神経核にいたる経路と脳幹を介する経路の2通りが考えられた。 また、中枢疾患の機能評価の前段階として、脊髄小脳変性症や進行性核上性麻痺を含む中枢性変性疾患99例についてENG所見を詳細に検討した。その結果、滑動性眼球運動の障害と上向きのocular dysmetriaは90%以上の確立で検出され、中枢性変性疾患の検出に有用と思われた。それに対し急速眼球運動速度の低下やopsoclonus、ベル現象の消失やsquare wave jerkは出現頻度が極めて低かった。水平方向のocular dysmetriaや注視方向性眼振、rebound nystagmus、垂直方向の頭位変換眼振、visual suppressionの障害、視運動性眼振などは異常出現頻度が中等度で、障害の部位や程度を反映するものと考えられた。カロリックテストでの半規管機能低下と自発眼振の方向との間には関連はみられなかった。疾患別の特徴をみると、SCA6とSCA3ではすべての方向に注視方向性眼振を認めやすいのに対し、進行性核上性麻痺では他の方向と比べて上向きの注視方向性眼振が出やすい傾向にあった。また、全症例中で垂直方向の頭位変換眼振は皮質小脳萎縮症で検出されやすく進行性核上性麻痺で検出されにくかった。
|