研究概要 |
喉頭癌は喫煙習慣との関連が深いことが知られている。煙草煙内に含まれる化学発癌物質は体内で様々な解毒経路をたどり代謝・排流されるが、この経路間で働く酵素を規定する遺伝子には多型があることが知られており酵素の活性に差があることが判明している。先天的に規定されたこれらの酵素活性の差が喫煙による喉頭癌の易発症性を規定しているのではないかと推測し以下の検討を行った。煙草煙内に含まれる化学発癌物質は芳香族炭化水素族であるベンツピレンに代表されるため芳香族炭化水素族を解毒する代謝・分解酵素に注目した。すなわち、第一相でのcytochrome P450、第二相でのglutathione-S-transferase(GST)、microsomal epoxide hydrolase(mEH)の酵素に注目し、これらを規定する遺伝子、CYP1A1遺伝子多型、GSTM遺伝子多型、GSTT遺伝子多型,EPHX1遺伝子多型について検討した。対象は健常者50名、喉頭癌患者60名、前癌病変である喉頭白斑症患者10名とした。研究対象者の血液からtotal DNAを抽出しPCR-RFLP法を用いて上記の遺伝子多型を決定し、それぞれのグループ間で遺伝子多型の構成比に相違が有るか、また喫煙歴との関連があるかを検出した。 CYP1A1遺伝子多型は大多数が正常型ホモかヘテロであり変異型ホモは数パーセントのみであることが判明しこれら3群間に差は認めなかった。GSTM遺伝子多型、GSTT遺伝子多型についても同様に3群間に差は認めなかった。しかしmEHを規定するEPHX1遺伝子のexon3の多型については相違が見られた。喉頭癌、白斑症の群ではexon3が2対ともtyrosineからhistidineに置換された変異型ホモを持つものが60%と健常人の30%と比較して有意差を持って多く認めた。この遺伝子型を持つ場合mEHの酵素活性が正常型ホモ、ヘテロの遺伝子型を持つ場合よりも低下することが知られており、mEHの酵素活性の相違による発癌物質の代謝過程の変化が喉頭癌の化学発癌感受性を規定している可能性が示された。
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