[目的]昨年度(平成12年度)にブラインドパッチクランプ法を用いて低酸素状態での前庭神経核の細胞活動を細胞レベル(in vitro)で記録した結果、膜電位が脱分極を示し、その後再分極される反応を呈することを発見した。今年度はこの反応がどのようなメカニズムにより生じるのかを細胞生理学的に検討した。 [方法]実験には幼若ラットを用いた。脳を摘出し末梢前庭神経を保存した前庭神経核領域を含む脳幹の切片(400-500mm)をマイクロスライサーで作成し、潅流ポンプを用いて95%O2・5%C02で通気した人工脳脊髄液を潅流したチェンバー内に固定した。電気刺激装置からパッチクランプ増幅器に1mV矩形波を10Hzで入れてオシロスコープで電極抵抗をモニターしながら脳幹スライスに微小パッチ電極を刺入し電極が細胞膜に接することを確かめた後、電極に陰圧をかけてホールセル記録を行った。人工脳脊髄液からグルコースを除去し95%N2と5%C02の混合ガスで十分に通気にした潅流液に切り替えることにより虚血負荷に類似した低酸素状態を作成して前庭神経核におけるシナプス電流や膜電位の変化を測定した。無酸素・無グルコース負荷する30秒前よりグルタミン酸レセプター拮抗薬(GDEE)を潅流させて薬物の影響について調べた。 [結果]低酸素状態にすると前庭神経核の細胞の発火は亢進して膜電位は脱分極し、その後に発火は減少すなわち過分極される2相性変化を呈した。この現象はGDEEを潅流することにより抑制された。 [結論]低酸素によりスライス内の神経終末からグルタミン酸が遊離され、その結果、前庭神経核ニューロンにおけるグルタミン酸レセプターが活性化されることが推察される。
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