下咽頭癌は予後のもっとも悪い頭頚部悪性腫瘍の一つである。下咽頭という組織の脆弱な部位に発生すること、リンパ流が豊富な部位に発生し、所属頚部リンパ節や遠隔転移が容易に起こることが予後に大きく関与していると考えられる。早期発見、早期治療が現在のところ治療成績を向上させる大きな要因である。しかし、喉頭癌と異なり、症状の出現しにくい下咽頭癌の初期発見の啓蒙は現実的にまだ困難な点が多い。下咽頭癌がどのようなメカニズムを経由して転移を起こすのかは実際には不明な点が多い。喉頭癌に比して下咽頭癌の基礎研究は今だ少ないのが現状である。我々はさまざまな組織学的手法を用いてこのメカニズムの解明を行った。 下咽頭癌の手術にて採取された咽喉頭標本を解析し、癌の進展形式について解析した。解析は連続大切片標本を作成し、H-E染色を行うことで癌の局所での進展形式について解析した。浸潤を示す代表的な標本はカドヘリンとカテニンなどの接着因子を用いた免疫組織学的染色法を用いて染色し、組織学的悪性度について解析を行った。大切片標本の解析では下咽頭癌の局所進展では軟骨浸潤、散布性浸潤、脈管浸潤が共に予後に関与していた。接着因子は浸潤縁と軟骨浸潤部では染色性の低下が認められた。大切片標本の結果と接着因子の結果を組み合わせることで下咽頭癌の悪性度がより的確に把握できる可能性を見出した。今後は症例を増やし、さらにさまざまな免疫組織学的検討を加えたいと考えている。
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