一つの癌と同時に又は一つの癌が治癒して数年後に別の癌(重複癌)が発症し、治療に難渋することはよく経験される。頭頸部癌では特に重複癌の頻度が高く、同じ頭頸部領域内に、または上部消化管、下気道に同時性、異時性に重複癌を発症する。これは一つないしは二つの発癌因子が広い領域に癌化をもたらすものであり、Field cancerizationと呼ばれ、頭頸部癌の予後を悪くしている一因である。しかしこの発癌因子がそれぞれのの臓器において、いかなる影響を与えているか、それが同じ傷害なのか、異なったものなのかは不明である。頭頸部癌患者について同じ頭頸部領域または他の臓器に発症した重複癌について、その遺伝子異常を調べることで、それぞれの癌細胞が同じ起源から発生したものか、また重複癌発症に関与する遺伝子を明らかにする事を目的として本研究を行った。 過去に東海大学医学部付属病院で治療をした頭頸部癌患者の内、頭頸部領域、他臓器に同時性または異時性に重複した癌を発症した患者を選び出し、組織標本を集めた。腫瘍DNAを抽出し、同時に摘出標本中の周囲正常組織からもコントロールとして正常DNAを抽出した。頭頸部癌で頻繁に遺伝子異常がみられる染色体領域でマイクロサテライト解析を行い、遺伝子異常(ヘテロ接合性の消失やマイクサテライト不安定性)を調べた。 重複癌の有無とヘテロ接合性の消失やマイクサテライト不安定性には、統計学的有意差を認めなかった.その他の臨床病理学的因子では遺伝子異常と有意な関係を示すものはなかった.今後も症例を増やして検討する.
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