(目的)平成13年度は嗅覚変性の慢性実験を行った。その目的は、嗅裂の嗅上皮などの感覚系末梢側が破壊、変性された嗅覚障害モデルを作成し、それが慢性的に経過した時の中枢での退行変性がどのように起こるか、またそれを予防することが、レーザー照射などのエネルギー刺激により可能かどうかを研究することにあった。(方法)実験動物にはハートレー系モルモットのオスを使用した。ケタラールとセロクラールによる腹腔内麻酔後、右側鼻腔に組織固定用ホルマリンを浸した綿球を挿入留置した。その後、速やかに開頭し左右の嗅球と大脳皮質を明視下におき、嗅球に刺激電極を挿入、嗅覚野とされる前頭葉の大脳皮質に導出電極を挿入固定した。70μA、幅100μsecの矩形波による電気刺激を1秒間隔で64回施行し、その加算波形を専用のソフトで描出した。そして、その波形に左右差がほぼないことを確認した。1回の実験でレーザー照射群と対照群をおき、対照群はそのまま開頭した部位をフィブリン糊で被覆し、表皮を縫合した。レーザー照射群は右側嗅球に実効出力0.52Wの半導体レーザー光を非接触で300秒照射し(7.95J)、開頭した部位をフィブリン糊で被覆し、表皮を縫合した。いずれも照射前後で嗅球の表面温度に極端な差がないことを確認した。その後、開頭した部位をフィブリン糊で被覆し、表皮を縫合した。1か月、2か月、3か月後に2匹の実験動物を同様の手技で電気刺激波形を確認した。(結果とまとめ)両群で1-2か月後では左右の波形に差は認められなかったが、3か月後にホルマリンを挿入した右側の波形が描出されないことが確認された。末梢の破壊により、中枢の神経反応の減弱が3か月後に現れるが、その減弱を1回限りのレーザー照射では抑制できないことが判明した。
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