研究概要 |
ウサギ副鼻腔粘膜に、細菌感染や機械的刺激により実験的に損傷を加えると、粘膜上皮の欠損部位より上皮下組織や炎症細胞等が粘膜外へ漏出するが、直後より周辺の健常上皮細胞が幼若化して、上皮欠損部位表面へと遊走し、漏出した組織ごと被覆しようとする。また一方で、一部の幼若遊走細胞は、上皮下結合組織層へと陥入する。これら上皮表面および上皮下の幼弱細胞は、実験導入後1週間の時点でそれぞれ再度分化・成熟し、初期のポリープ上皮と基部が形成された。これら初期段階の実験的ポリープは、実験導入後4,8週間では、細菌感染を併発させると成熟したポリープとなるが、持続的な感染がなければ、ポリープ病変はほとんど認められず、ポリープの増大には初期病変への持続的な炎症性刺激が必要と考えられた。ここで、非感染群において実験導入後8週間に、異型の分泌腺が上皮下に認められ、これは初期にみられた上皮下へ陥入した幼弱細胞が局所にとどまり、そのまま成熟して形成されたと考えた。 一方ヒト慢性副鼻腔炎における鼻茸は、ウサギ副鼻腔の実験的ポリープとは異なり、上皮層は多列線毛上皮と扁平または円錐細胞の混在であり、さらに上皮下には、リンパ球、好中球あるいは好酸球などの炎症細胞浸潤が、浮腫、うっ血した間質内に認められた。しかし、幼弱な上皮細胞が内方に向かい分化・発育している部位が少なからずみられ、そのさらに内方には、ウサギでもみられた異型の分泌腺やあるいは拡張した腺管構造が認められた。このような内方への発育機転が、ヒトの鼻茸においてもポリープの増大に関与していると考える。現在この仮説に基づき、ヒトポリープの上皮および異型分泌腺における各種レクチン(UEA-I,ConA,PNA,MAA,WGA)染色性の相違を検索しているところである。
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