研究目的:重傷化したocular surface疾患に対する新しい概念の外科的治療法として「拒絶されにくい」角膜移植片の開発を目的とし、遺伝子操作による角膜移植片の作製の可能性を検討した。研究方法:マウスを用いて全層角膜移植を施行した。ドナー角膜にsoluble Fas ligandを生じないmutant Fas ligandをアデノウィルスベクターを用いて遺伝子導入し、生着率を検討した。ウィルスベクターは高濃度(10^8pfu/ml)と低濃度(10^5pfu/ml)の2種類で検討した。各々の濃度における遺伝子導入効率をβ-ガラクトシダーゼ遺伝子を組み換えたアデノウィルスベクターを用いて確認した。研究結果:アデノウィルスベクターでの角膜組織への遺伝子導入は高濃度ベクター溶液で70〜90%の、低濃度ベクター溶液で30〜50%の角膜内皮細胞においてその発現が認められた。これらのドナー角膜組織を用いて同種異系角膜移植を行ったところ、高濃度遺伝子導入では、術後早期に移植片の混濁が認められ、またこの混濁は同系ドナー角膜を用いても同様に認められた。低濃度遺伝子導入では、術後早期の混濁は認められなかったが異系移植片の生着において遺伝子非導入群と有意な差を認めなかった。考察:mutant Fas ligandのドナー角膜組織への遺伝子導入は異系角膜移植片の生着を促進せずむしろ、高濃度では移植片の早期混濁をきたすと考えられた。結論:1)アデノウィルスベクターを用いることによりドナー角膜組織に効率良く遺伝し導入すること可能である。2)mutant Fas ligandの遺伝子導入は移植片の生着を促進することはできず、過剰な発現によりむしろ移植片破壊を促進することが示唆された。
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