前眼部は免疫抑制環境であり、そのため同種角膜移植は他の臓器移植に比較し拒絶率が著しく少ないことが良く知られている。前眼部の免疫抑制環境を構成するひとつの重要な因子であるFas ligand(FasL)をドナー角膜に遺伝子導入し、過剰発現させることにより、移植片のさらなる生着率の向上を試みた。Adenovirusを用いてC57BL/6マウス角膜にFasLのcDNAを導入し、BALB/cマウスに移植を行った。導入したFasLはsoluble formを生じないように変異させたmutantを使用した。mutant FasLを導入した同種角膜移植片は無処置の角膜移植片と比較し、高率にかつ迅速に拒絶され、mutant FasLの遺伝子導入が角膜移植片の生着をむしろ悪化させる結果が得られた。更には、FasLのレセプターであるFasを欠乏させたドナーあるいはホストを用いて同様の検討を行ったところ、ホストがFasを欠乏している場合にのみFasLによる高率な移植片拒絶が抑制されたため、mFasL遺伝子導入における移植片拒絶はドナーではなくホストのFasを介した機序であると考えられた。以上のことより、mFasL遺伝子導入では角膜移植片の生着を向上させることはできず、soluble formのFasLあるいは変異させないwild typeのFasLが生体内での角膜移植拒絶防止に役割を果たしている可能性が示唆された。
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