[目的]肥満細胞浸潤とそれに伴う炎症の遷延化がケロイド肥厚性瘢痕形成に関与する事は古くから示唆されている。トラニラストなどは、この肥満細胞機能を調節する事でケロイド肥厚性瘢痕に有効と考えられていた。しかし近年ではケロイド肥厚性瘢痕は、炎症細胞が多面的に組織全般に作用し、これらの作用が複合する事で発症すると考えられている。肥満細胞が放出する各種起炎物質が、周囲組織のアラキドン酸代謝に影響する事は知られているが、表皮細胞、皮膚線維芽細胞への影響は明らかでなく、同時に刺激に伴ったこれら細胞へのPGE2産生及びその後のNO産生に及ぼす影響はほとんど研究されていない。そこで今回、我々は肥満細胞由来の数種の即時型起炎物質による表皮細胞由来PGE2産生への影響を最初に確認しその後NO産生が以下に影響されているかを検討した。 [方法]正常ヒト由来培養表皮細胞は倉敷紡績製Epi-Packを用いた。河辺らの方法に準じこれら細胞に1)2時間または24時間培養後、培地中に自然産生されるPGE2とNOを測定した。2)ヒスタミン、ブラジキニンなどの肥満細胞由来化学伝達物質を添加し一定時間培養後、表皮細胞、線維芽細胞由来のPGE2とNOを測定した。3)両検討から、100μMトラニラストを培地中に共存させ、同様の処理を行い産生されるPGE2とNOを測定した。4)培地中PGE2とNOは、EIA法とグリス法で測定した。 [結果]1)ヒスタミン、ブラジキニンなどは表皮細胞からのPGE2とNOの自然産生を用量依存的に促進した。2)トラニラストは、表皮細胞からのPGE2の自然産生を用量依存的に抑制した。3)トラニラストは、ヒスタミン、ブラジキニン刺激性PGE2産生の亢進を有意に抑制した。 [考察]表皮細胞は、PGE2とNOを産生できる事が明らかになった。その際、PGE2産生がNO産生に影響する事も推察された。一方ケロイド肥厚性瘢痕に有効なトラニラストが、線維芽細胞の誘導型シクロキシゲナーゼ発現を抑制しPGE2産生を阻害する事はすでに報告されている。本薬剤の有効性がNO産生に影響している可能性も推察できた。次年度以降はNO由来ペルオキシニトリトの検出を試み、ケロイド肥厚性瘢痕とのかかわりを明確化する。
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