熱傷後の創部の治癒後にはしばしば、ケロイド・肥厚性瘢痕を形成するが、その形成過程で一酸化窒素合成酵素(NOS)由来一酸化窒素(NO)の関与も報告され始めている。すなわち、ケロイド・肥厚性瘢痕の形成過程における肉芽過増生の制御に創部NOの制御が重要と言う考え方である。しかしながら形成外科領域に於いては、その現状としてケロイド・肥厚性瘢痕を創傷治癒過程の異常と言う認識で各種研究が展開されているが、炎症という側面からのアプローチはなされていない。以上の経緯から、実験的熱傷モデルを用いて、現状では明確になっていない熱傷時産生されるNOの創部由来の証明と産生されたNOの活性分子種としてのパーオキシニトリト変換の可能性と組織障害性を明確にする事を試み、本研究展開から、ケロイド・肥厚性瘢痕形成機構に関わるパーオキシニトリトの関与について考察した。 その結果、熱傷受傷創部にNOが産生されており、この熱傷創部におけるNO産生を各種NOS阻害薬で阻害すると創部血管透過性が抑制され、組織障害を予防できることが判明した。しかも、このとき産生されるNOは熱傷創部周囲の表皮層に発現している誘導型NOSに由来することが免疫組織化学的に明らかになった。一般的にNOは、スーパーオキシドアニオンと接触することで極めて反応性の高いパーオキシニトリトに変換し、強力な酸化ストレス物質として周囲のたんぱく質のチロシン残基をニトロ化し細胞や組織を障害する。そこで、熱傷周囲組織のパーオキシニトリト産生の可能性と組織障害性を検討するため、熱傷周囲組織に対し抗ニトロチロシン抗体を用いた免疫組織化学的観察を行った。その結果、熱傷周囲組織に瀰漫性に組織ニトロ化像が観察され、熱傷に由来するNOがパーオキシニトリトに変換された後に組織を障害していることが判明した。同時に著者らが開発したニトロチロシンEIA測定法により、この熱傷創部中のニトロチロシン量が、熱傷受傷後に非熱傷郡に比べ有意に増加していた。 以上のことから、熱傷受傷に伴い創部ならびに創部周囲にNOが産生され、同時にパーオキシニトリトへの変換によって組織障害を引き起こすものと考えられた。この組織障害が、その後の創傷治癒過程に変調を来しケロイド肥厚性瘢痕の形成の原因となる可能性が考えられ、ケロイド肥厚性瘢痕形成機構に及ぼす創部治癒過程のNO動態を検討する必要がある。
|