エナメル質形成不全ラットと正常ラットの歯胚において、発現量の異なる遺伝子を同定するために、まず、歯胚の異常形成が始まる時期の同定を光学顕微鏡、電子顕微鏡による形態学的な観察により行った。生後0日目から5日目までの歯胚の発生過程を観察すると、生後3日目において、エナメル質形成不全ラットのエナメル芽細胞は、細胞の丈は高くなるものの、トームス突起を形成せず、基質形成期が短いことが観察された。生後3日以前では、歯胚の細胞に形態の差異がほとんど認められず、生後3日以降では、正常ラットの歯胚でエナメル質が大量に形成されてしまい、比較対照に用いるには不適切であった。以上の結果を踏まえて、生後3日目のエナメル質形成不全ラットと正常ラットの歯胚を用いたPCRサブトラクション法を行った。通常のPCRサブトラクション法では、偽陽性もしくは偽陰性の反応を示す遺伝子を大量に単離する問題が生じたことから、サブトラクションにより作製したライブラリーから、コロニーアレーによる二次スクリーニングを行った。この方法により、エナメル質形成不全ラットにおいては発現量の少ない遺伝子を単離することに成功した。これらの遺伝子には、エナメルタンパクであるアメロジェニンが多く含まれていた。また、細胞内におけるタンパク質分解に中心的な役割を果たしているユビキチン/プロテオソーム系の構成タンパクをコードする遺伝子も同定した。エナメル質形成過程において劇的に細胞の形態を変化させるエナメル芽細胞にとって、細胞内のタンパク質の分化を制御する機構は重要性であることが予想され、この遺伝子がエナメル質形成不全ラットの原因遺伝子に関連する遺伝子であることが考えられた。今後、これらの結果から、ユビキチン/プロテオソーム系による機構がエナメル質形成に重要な機構であることが明らかになると思われる。
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