前年度おこなったエナメル芽細胞を用いたサブトラクションでは、使用した歯胚のRNAにおけるエナメル芽細胞の割合が低く、そのためにエナメル質形成不全症ラットと正常ラットのエナメル芽細胞で発現量の差を示す遺伝子を効率よく単離することが出来なかった。本年度においては、エナメル芽細胞を含む上皮由来のエナメル器のみを材料に用いることにより、エナメル芽細胞で特異的に発現する遺伝子の同定をさらに試みた。まず、生後3日目のエナメル質形成不全ラットと正常ラットから単離した歯胚にトリプシン/コラゲナーゼ処理を行うことで歯胚のエナメル器と歯乳頭を分離しエナメル器からRNAを抽出した。昨年度と同様にサブトラクション法により作製したライブラリーから、コロニーアレー法による二次スクリーニングを行い、エナメル質形成不全ラットにおいて発現量の少ない遺伝子を単離した。これらの遺伝子には、アメロゲニンだけでなくエナメリン、アメロブラスチンなどのエナメルタンパクが多く含まれていた。このことは前年度における結果ではアメロゲンニンが単離されたのみであったことと比較して、本年度に使用した方法が有効であることを示している。既知のエナメルタンパク以外の遺伝子としては、8個の遺伝子を単離した。これらの遺伝子は塩基配列から相向性を示す遺伝子をBlastで検索したが、すべてこれまでに単離されていない遺伝子であった。これらの遺伝子について発現の特異性を確認するために、歯胚を含む各臓器からのRNAを用いたRT-PCRを行った。その結果、2個の遺伝子について歯胚に特異的に発現している傾向を示したことから、これらの遺伝子がエナメル質形成不全ラットの原因遺伝子となんらかの関連性があると考えられた。これらの研究結果は、エナメル芽細胞の分化を制御する機構を解明するために重要な手がかりとなると思われる。
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