研究概要 |
TCR刺激によるT細胞の活性化誘導アポトーシス(activation-induced cell death,AICD)は自己反応性T細胞の除去や免疫応答の収束の際に起こる活性化T細胞のクローン縮小に重要な役割を果たしている.このアポトーシスはFas/Fasリガンドの遺伝子発現を介して起こり,細胞内ATP依存性プロテアーゼであるプロテアソームの阻害によってそれらの発現が転写レベルで阻害されると共にアポトーシスも抑制した.またFasリガンド遺伝子のプロモーター領域-241/-151領域のSP1様配列がユビキチン-プロテアソーム系を介したFasリガンドの発現に重要な役割を果たしていた.SP1はほとんど全ての組織に発現している転写因子であるが,その転写活性の制御は二本鎖DNA依存性プロテインキナーゼやPKC zetaなどによるリン酸化によって制御されていることが明らかになってきている.そこでTCR刺激によって生じる細胞内情報伝達系の活性化によるFasリガンドの発現とユビキチン-プロテアソーム系の関与について解析を行った.抗CD3抗体刺激により活性化する細胞内情報伝達系は,Ras-MAPKカスケード,Rac-JNKカスケードなどが知られており,今回用いたT細胞ハイブリドーマN3-6-71においても抗CD3抗体によるERKの早期の活性化,JNKの遅延性の活性化が検出されたが,プロテアソーム阻害剤の前処理によりERK及びJNKの活性化は顕著に抑制された.一方抗CD3抗体処理により,LckによってCD3zetaが,ZAP-70によって低分子GTP結合タンパク質であるvavがそれぞれチロシンリン酸化を受けるが,プロテアソーム阻害剤によってチロシンリン酸化が抑制されなかった.これらの事実からvav(sos)とMAPKカスケードの中間のステップで,ユビキチンープロテアソーム系が何らかの機能をしていることが考えられた.現在,Ras及びRacの活性化がプロテアソーム阻害剤で抑制を受けるかどうか解析中である.
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