研究概要 |
本研究の最終目標は「L-band ESRを用いて口腔内領域で産生されたNOをin vivoリアルタイム計測し,その分布領域をin vivo ESR-CT imaging systemを用いて3次元画像化すること」を達成することにある.そのため,平成12年度は,(1)X-band in vitro ESRによるNO検出と実験的方法論の確認,(2)L-band in vivo ESRによるnitroxide radicalの検出と画像化を試みた.NOトラップ剤に鉄ジチオカルバメート錯体(Fe-DTCS)を用い,そのスピントラップ特性をX-band in vitro ESRにより検討した.NO発生剤NOC-7により放出されるNOをFe-DTCS錯体によりトラップし生成されるNO-Fe-DTCSスペクトルは,添加NOC-7濃度依存性に増加し,化学量論的にNOC-7濃度とNO-Fe-DTCS濃度間に1:1の直線関係を得ることができ,検出限界はNOC-7濃度で100nMであった..また,このアダクトは水溶液中で2時間にわたりほぼ安定,すなわち酸化還元等の影響を受けにくいことから,生体系への応用の可能性が示唆された.In vitroでのスピンとラップ特性の検討後,in vivo実験へと移行した.Fe-DTCSを用いた生体内NOトラップによるNO画像化に着手する前の予備実験として,安定nitroxide spin probe投与動物の3次元画像化を行った.Fe-DTCS錯体がNOをトラップして生成されるNO-Fe-DTCS錯体はnitroxide radicalである.よって予備実験には同様のnitroxide radicalであるcarbamoyl-PROXYLおよびMC-PROXYLを用いた.Carbamoyl-PROXYLが血液脳関門(BBB)を通過しないのに対し,MC-PROXYLは容易に通過する薬物である.この性質の異なる薬物投与により,分布領域の区別化が可能であるか頭部にて検討した.MC-PROXYL投与ラットおよびマウスの頭部L-band in vivo ESR測定では,nitroxide radicalの存在を示す3本線ESRシグナルが検出され,3次元画像により脳を舍む頭部領域全体に分布していることが確認された.一方,carbamoyl-PROXYL投与ラットおよびマウスにおいても,nitroxide radicalのESRシグナルが検出されたが,3次元画像化によりこのシグナルが脳領域を除く顎顔面部に由来する.すなわち顎顔面部にのみ分布していることが確認された.よって,我々の教室で開発したL-band in vivo ESR imaging systemにより,外因性radicalの分布領域の位置情報を明確にできることが示唆された.よって平成13年度では,12年度で確立したFe-DTCS錯体によるNOトラップ手法をL-vand in vivo ESRに移行させ,病態モデルを用いたin vivo NOトラッピングおよび顎顔面部におけるNO分布領域の画像化に着手する.
|